予防歯科
予防歯科の実践
虫歯はどうしてできるのでしょうか?
私達の歯の周りでは、食事のたびにいったい何が起こっているのでしょうか。
歯の表面は、プラーク(歯の表面にくっつくネバネバした細菌のかたまり、歯垢ともいう)で被われており このプラークの中の虫歯菌は、あなたが食べたり飲んだりするものの中にふくまれる炭水化物や糖を利用して歯を溶かす酸をつくります。
この酸によって歯からカルシウムイオンやリン酸イオンが溶け出します。この働きを脱灰といいます。
脱灰が持続すると歯の結晶成分が失われて歯に穴があいてしまう。
この働きを再石灰化といいます。
食事のたびに「脱灰」と「再石灰化」は常に繰り返されています。
右の図はStephanのカーブといいます。
プラークの中のPHの変動する様子を表しています。
通常、プラークの中は中性に保たれています。この実験では砂糖水を飲んでいます。
砂糖水を飲むと プラークの中にいる虫歯菌も砂糖を食べます。
そして、代謝産物である酸を産生します。
プラークの中は 2~3分で酸性に傾き、エナメル質は5.5で脱灰されます。
象牙質、乳歯、幼弱永久歯は6.2で脱灰されます。
そのままプラークの中が酸性のままであったら、歯はなくなってしまいますが、唾液の緩衝能により中性に戻されます。歯が溶け始めるpHを臨界pHといいます。
プラークの中が臨界pH以上になると、歯の成分であるリンとカルシウムが、歯に取り込まれます。 食事のたびに歯の周りではこのようなことが繰り返されています。
要約すると 虫歯菌+糖・炭水化物=酸→脱灰 という図式になる。
1960年代にカイスという人が無菌動物には虫歯ができないことを発見してカイスの輪というものを示した。 今でも虫歯予防の基本は、細菌数を減らすこと、食事、歯質の強化です。
カリエスリスクスクリーニングテスト
歯科医療の基本はまず予防です。
細菌検査でまず、症状をしっかり把握した上で一人ひとりに最適な予防方法をご提案いたします。
サリバテスト(唾液検査)とカリエス(虫歯)リスク
虫歯のでき方には大きな個人差があります。
そこで、患者さん一人ひとりの虫歯の危険度を検査して、個別に予防のプログラムを作るというのが新しい虫歯予防の考え方です。
サリバテスト(唾液検査)では、虫歯菌であるミュータンスとラクトバチラスの成育状態、そして唾液の分泌量と緩衝能が分かります。
虫歯菌の数が多いほど、食後に大量の酸がつくられます。
また、その酸を早く洗い流すためには、唾液の量と質が関係しますし、酸を中和する緩衝能が強い方が虫歯になりにくいといえます。
その他、磨き残しの量や食生活など、虫歯の危険度を知るための8つの項目を4段階に評価して、虫歯になる危険度をグラフで表します。
この結果にそって、担当の歯科衛生士が患者さんと個別にカウンセリングを行い、適切な虫歯予防のプログラムを作成します。
- むし歯にならない方法とはどんなことをするのでしょうか?
- 唾液検査をしてお口の中のリスクを検査します。
ガムを噛み唾液を採取し歯の周りについたミュータンス菌、ラクトバチラス菌の細菌数を測定し、唾液の分泌量、緩衝能を測定します。 - 私のむし歯になるリスクは高かったのですが、今後は何をしたらよいのでしょうか?
- ミュータンス菌が多い方はミュータンス菌を少なくする方法を実践してもらいます。
菌数は子供の頃に決まってしまい歯を磨くだけでは減りません。
虫歯菌が多い場合、歯科衛生士が特殊な器具を使って、歯磨きでとりきれない表面や、歯の間の膜を取る「PMTC」を数ヶ月ごとにするのが有効です。
薬剤を使った除菌、キシリトールガムで細菌を少なくする方法も有効です。
唾液に問題がある方は、唾液を改善します。 - フッ素は効果的ですか?
- フッ素は家庭で行われる方法と歯科医院で行われるフッ素塗布があります。歯質を強化すること で予防効果があります。
フッ素はすべての年代の方に有効です。
しかし、細菌数、唾液、プラーク コントロール、食事等、いろいろなむし歯を作る原因がありますので、それらを総合的に改善する必要があります。
予防歯科をすると750万円のお得
歯は削らないことが大切です。
歯科医が削っていない歯は美しい。歯の形にも若さがあります。
日本では治療した歯はどの位もつものなのでしょうか?日本口腔衛生学会の統計では約6年から7年で再治療になっていると言われています。50歳の時25本、歯は残っていますが80歳の時9本しか歯は残っていません。30年間で16本もの歯が失われています。
一方、スウエーデンでは80歳で20本以上歯が残っています。アメリカでも15本以上の歯が残っています。
先進国である日本ですが歯科医療では、相当遅れているようです。
どうして、こんなに歯が失われてしまうのでしょうか。
日本の歯科医療は遅れているのではなく正しい治療が行われにくい環境にあります。そして、出来高払いという医療制度が医療の本質、つまり、健康を保つということをゆがめています。
そのことが歯を失う原因です。
今までの日本の歯科医療は、虫歯・歯周病で歯を失ってから機能を補うだけでした。
虫歯になったから削って詰める。歯を失ったからブリッジや入れ歯にする。このようにお口の中の病気に対する原因除去療法が行われていませんでした。
日本では歯科医が削って、詰めて、被せるということが歯科医療だと思われています。また、予防歯科が医療保険の中に組み込まれていません。
一生、歯を残して歯を機能させることに保険診療の評価はありません。歯科医が歯を残そうと頑張ったといても保険ではまったくお金が支払われないシステムです。
一方、歯が残っている北欧の国では予防歯科が定着しています。
スウェーデン イエテボリ大学予防歯科学教室のアクセルソン先生は30年に渡る予防歯科の研究を2004年に発表しました。
バイオフィルムの中に存在する虫歯菌・歯周病菌がそれぞれの疾患の原因であるので、それを除去することにより虫歯・歯周病は防ぐことができるのか?また、バイオフィルムを徹底的に除去することにより歯は保つことが抜かずに保つことができるのかを1971年から研究を始めました。
1971年に550名以上の患者さんを集めました。375名は予防歯科をするグループ180名は予防をしないグループに分けました。
予防歯科をしないグループは倫理的理由により解散させられました。歯が次々に失われていくのを黙ってみていられなかったからでしょう。
それぞれの患者さんはお口の中の状態について理解するように教えてもらい、どうしたら虫歯ができないようになるのか、また、どうしたら歯周病にならないのか、どうしたら歯を失わずにすむのかを歯科医師や歯科衛生士から指導されました。
最初の2年間は2ヶ月に一度、定期健診に来院しました。
3年後から30年後の間は3〜12ヶ月に一度、定期健診に来院しました。定期健診では適切なプラークコントロールプログラムの方法、手段を教えてもらいました。
その後プラークを染め出しPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)が行われました。
その結果、30年間の間、ほとんど歯は失われませんでした。
年齢によっても差はあっ たが0.4本~1.8本歯は失われました。
ほとんどの歯を失う理由は歯根破折でした。たった21本だけは、虫歯、歯周病で失われました。新しい虫歯の発生は年齢によっても異なりますが、1.2本、1.7本、2.1本でし た。 虫歯の発生の約80%は、再発性の虫歯、つまり、過去に虫歯になって修復済みのところが、再び虫歯になる2次カリエスというものでした。
ほとんどの部位でアタッチメントロス(歯周組織がなくなる)はみられませんでした。
結論として、この研究では、30年間の長期にわたって、患者様は定期的に診療室を訪れ、注意深く予防歯科の処置を受けました。
そして、30年間の成果が集積されました。 また、患者様は口腔衛生の高い水準を維持することの利益を認識し、予防歯科のプログラムを楽しみました。
結果は、歯の喪失も、虫歯の発生も、歯周病の進行もほとんどありませんでした。
当医院でもこのように北欧の予防歯科を採用しています。当医院では1994年から予防中心の歯科医療体制に切り替え、今年で21年経過しました。 治療のためではなく、予防のために当医院にお見えになる患者様が増えてきて、結果が出始めてきました。
メインテナンスしてくださる患者様は歯を失いません。 とても喜ばしいことだと思います。 地域のみなさまの歯を失うことなく、美しく保っていきたいと願っております。 「ご自身の歯・口腔を一生、美しく失うことなく快適に保ってもらう」ことが当院のミッションです。