「リンゴをかじると歯茎から血が出ませんか」というTVコマーシャルが昔ありましたね。
歯周病は必ず歯肉から出血するものです。他の体の器官からは滅多に出血は起こらないのに歯肉からは容易に出血します。歯肉から出血すると怖くて歯磨きが出来ないという方がいますが、これはいけません。歯肉にプローブを入れると出血するとき、臨床的に歯周病と診断します。それではなぜ出血するのでしょうか。
体の表面、空気にさらされている部分は必ず上皮細胞というものが存在します。上皮細胞とは何でしょうか?細菌等の有害な物質が体の中に侵入しないよう体の内部を守っているものと言って良いでしょう。
上皮細胞の外側には必ず角質層というものがあり、これは上皮細胞が死んだものです。例えば手足のまめを思い出して下さい。手足の皮のまめを剥がしても痛みは感じないと思います。それから皮膚に生えている毛髪はすべて角質層なのでハサミで切っても痛くない。つまり細胞が死んでいて角質化しているのです。
角質層を説明する時に、もう一つ良い例があります。動物のサイ、ワニを思いおこして下さい。ワニ皮のベルト、皮のバッグ等の表面は角質層です。結局、表面の細胞は死んでいる。
人間の体の一番外側に存在する角質層には細菌、ウィルス等が侵入出来ないように鎧・カブトのような角質層をまとっているということです。
この角質層のおかげで人や動物はチョットのことでは感染しないのです。
しかしながら歯は唯一、体の中から体の外に貫通している器官であります。歯という半分死んでいる器官と生きている歯肉の細胞が結合するためには、歯肉と歯がジョイントしている部分は生きていなければなりません。ここに歯周病が発生する弱点があります。
この部分は(歯と歯肉の境目)は角質化していないので、歯周病菌という細菌が体の中に容易に侵入出来るのです。
角質化していない歯と歯肉の接合部分で、歯周病菌が歯肉に中に侵入すると体は防御反応を起こします。波打ち際で細菌をやっつけないと歯周病菌は体の奥深い所に侵入してしまうから防御するのです。このことを炎症と言います。炎症とは体の防御反応を意味します。具体的には白血球という兵隊さんが血管から飛び出しれきて歯周病菌と戦ってくれます。白血球の死骸・残骸のことを膿と言います。膿の量が多いということは炎症反応が著しいということを意味しています。
私たち臨床医が歯周病と診断する根拠は、必ずと言っていいほど見られる歯周ポケットからの出血で診断します。これは上皮バリアが破壊されたサインです。膝を擦りむくと、上皮が剥がれて血が出ます。上皮が剥がれなくなった状態を潰瘍(かいよう)と呼びます。上皮バリアが破壊されると、歯周ポケットの歯肉上皮にも潰瘍面ができます。
口腔清掃不良、あるいは宿主抵抗力の低下によって歯周組織に炎症が生じると、歯肉内縁上皮(歯肉溝上皮と付着上皮の総称)細胞が剥離脱落し、潰瘍面が形成されます。そのため、潰瘍面に露出した毛細血管から歯周ポケット内に血液が常時供給されるようになります。この血液はポケットプローピング時の出血、あるいはブラッシング時の出血として観察されます。
歯肉に潰瘍が出来ているなんて何だか恐ろしいことですね。
日本歯周病学会専門医 吉川英樹 執筆
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