crown

稀に奥歯が邪魔をして前歯が噛み合わない患者さんがいらっしゃいます。昨日もそのような方が2人ほどいらっしゃいましてこのような説明をさせて頂きました。
歯の形を観察すると色々な違いがあり興味深いです。

例えば、前歯はシャベルのような形態をしていて奥歯は臼のような形です。前歯は食物を引きちぎるような働きをして、奥歯は食物をすりつぶします。
どうしてこのような形態になるのか、機能する時の力が関係しています。
上下の歯をカチカチかみ合わせると、それらが同時同圧に噛み合うと思います。このような上下の噛み合わせを「中心咬合位」と呼びます。中心咬合位では、歯は最大面積で接触しています。

上下の歯の接触は面で接触しているのではなく点で接触しています。

Leica Picture

写真では咬合紙によって歯に赤いスポットが印記されていますので歯は点で上下咬合しているのが解ると思います。
中心咬合位で噛むだけではなく、人の下顎は前後左右に動きます。犬は下顎は前後左右に動かないそうです。先ず、「下顎を前方に動かしてください 」この時に噛み締めながら下顎を前方に動かすことがポイントです。口を開けてしまっては奥歯のどの部分が咬合接触しているのかが解りません。正常な方は奥歯がすべて離開することが大切です。

それでは何故、奥歯が離開することが重要なのでしょうか。
その理由は人の顎は3級テコの原理が働いているからです。

3級テコとは、支点を力点と作用点の外側で、かつ力点に近い場所に置いた際のテコ運動のこと。ピンセットやホッチキス、和バサミなどがこの種類のテコを応用している。正常な顎運動は、顎関節が支点、筋肉(咬筋)が力点、歯列が作用点となる3級テコ運動であり、力点に加えた小さな運動は、作用点において大きな運動となるが、顎関節には力がかかりにくい。ハサミを想像して下さい。ハサミで厚い紙を切断する時は支店に近い部分を使うと思います。ハサミの先端よりそこに大きな力がかかるからです。

人の顎は3級テコの原理なので前歯より奥歯に多くの力がかかります。そのため、前歯は華奢な形をしていて奥歯はガッチリした形をしているのです。
下顎を前方に動かした時に、すべての奥歯は離開するべきで、この現象をDisclesionと呼びます。

前歯により奥歯が保護されているとも言えます。もしこのDisclusionがないと奥歯にものすごい力がかかり、咀嚼運動が阻害され顎関節症などの原因になります。
「まっすぐ歩けないので見て下さい。歯が変な感じなので」という患者さんを診療したことがあります。お口の中を拝見すると下顎を右に動かした時に反対側の歯が邪魔をして干渉していました。干渉している所を削ると患者さんは真っ直ぐに歩けました。
噛み合わせというものは色々な所に影響するものですね。

日本歯周病学会専門医 吉川英樹 拝