3月になり日増しに日差しが春らしく感じられます。

 

私たち歯科医師の仕事で多いのは歯科の2大疾患と呼ばれる虫歯と歯周病の治療です。

虫歯とは歯の成分であるリンとカルシウムが酸により溶けだした状態でついには歯髄が露出してしまいます。

この現象は言わば体の内部が露出した状態です。

これを放置すると細菌は根管に沿って根尖方向に進出して根の先に到達します。すると細菌は外に向かって毒素を放出します。体の免疫が抵抗しなければ毒素・細菌は血流に乗って体中に回ってしまいには命にも影響しかねません。そこで、炎症という反応が起こり生命は守られているのです。

 

 

炎症を起こすことは非常に重要な生体の防御反応だということが解ります。

しかしながら局所では被害が起こります。

このブログで何回も書いているように根の先の骨の部分に膿がたまり、膿は外に出ようとするために排膿路を形成して、歯肉から出てきたり、歯と歯肉の間から出ようとします。

 

 

よく見かける根管治療の失敗で根の先が膿んでいる原因は歯の中に細菌が侵入することが原因です。

 

細菌が侵入するような治療はいけません。例えば、根管治療時にラバーダムをしない、無菌的な器具を使わないこと、仮封がいい加減、インレー(詰めもの)・クラウン(被せもの)の適合不良、これらの良くない治療により歯の中、つまり体の中に細菌が侵入し炎症を起こしてしまいます。

 

良い治療とは体の中に細菌感染を起こさない治療法です。ぴったりとミクロンレベルの適合で細菌の侵入を許さない詰めもの・被せもの。

 

一般的に体が傷を負って体の内部が露出しても上皮というものが出来て、体の外側を速やかに覆い細菌が体の中に入らないように保護します。

人間の体の外側、つまり空気に触れる部分は上皮という組織に覆われていて細菌・ウイルスが体の中に侵入するのを防ぎます。

消化器官も体の中に見えますが実は空気に触れているので体の外です。

 

体に出来た傷は多くの場合、放置していても自然に上皮(爬虫類の外側のように鎧・兜を着ている)が出来て塞がり角質層(細胞が死んでいる状態)により細菌・ウイルスが容易に体内に入らないようにしてくれます。

しかしながら、歯科の治療には自然治癒はないので私たち歯科医師が精密な治療をして細菌が入らないような精度の詰めもの・被せものをする、細菌が入らない根管治療をする以外方法はありません。

それゆえに歯科の治療は一般の医療の中でも相当に難しいものと言えます。ミクロンレベルの精度を要求されます。

私はクラウンブリッジの研修会でアメリカの専門医である講師の先生の言葉が忘れられません。「歯科医が口の中で唾液を排除して歯の型を採るということと心臓外科医が心臓にバイパスをつくり心臓の手術をするのと何の違いがあるのですか?」

根管治療は脳外科の手術と同等の細かい作業だそうです。結局、歯科の治療は外科処置、手術の連続と言えます。

 

 

従って、相当な覚悟を持って精度の良い治療を行わないと失敗に終わります。

 

半端ではない位難しいものです。どうか、ご理解くださいますようお願い申しあげます。

 

 

日本歯周病学会歯周病専門医 吉川 英樹 拝